九月になったのに、相変わらず暑苦しい毎日が続く。楽しい夕に、ゴキブリと一緒の昼寝は嫌だな。

　コインランドリーから帰ってきたら、外のドアの横の壁に4cmのミヨイクログロがたかっているじゃないか。取っ手の近くだし、下手して部屋の中に逃げ込まれたらたまったもんじゃない。幸い遠くからフーッ！と息を吹きかけたら地面の方に逃げ出した。踏み潰そうかと思ったけど、サンダルを汚すのはいやじゃ。

　アパート脇の地面で動きが止まったので、急いでゴキジェットを持ってきた。ヤツらは殺さずにはいられない存在なのだ

　しめしめ、まだいるぞ。そんなところでじっとして、隠れたつもりでいるのかい？
　ゴキジェットは勢いよくそいつの体に噴霧された。なぜか思ったよりなかなか死なない。効果を過信しすぎて説明書きどおりの時間を噴霧しないせいかもしれない。

　ジタバタと逃げ回るヤツに噴霧を続ける。一度階段の陰に逃げ込まれそうになったが、そこに噴霧したらわざわざこちらに出てきた。そんなに引導をわたして欲しいのか？
「く、苦しい。たのむ、武士の情で早く息の根を止めてくれ」と言っているのかどうかは知らないが。

　ヤツは息耐えた。ほんとうにこの夏はよく出る。年々ひどくなっている気がする。

　そういう外に出たヤツらも見逃さずにキチンと退治する俺って、社会に貢献しているよなあ、としみじみ思うのである。ノーベル賞とまでは言わないが、国民栄誉賞か、せめて小さな親切運動として誰か表彰してくれ。

　ところで、こないだ秋葉原で買い物した後にベンチに座っていたら、そばを一匹の小さな虫が通った。
　体長1cm、緑がかった土気色。長めの触角と、お尻にも第２の触角が…。今度こそ本物の茶バネゴキブリであった。
　そうかぁ〜これが噂に名高い茶バネかぁ…としみじみ観察してしまった。クロゴキの醜悪な姿と違い、実に昆虫っぽい。思わずカワイイと思ってしまったのは余裕のなせる技だろうか？
　初めての邂逅にうれしくなった俺は、命だけは助けてやることにした。
　そのかわり今度だけだぞ。
　二度と俺の前に出てくるな。
　先生の目の前ではタバコを吸うな。
　助けてやったからといって、俺が地獄に落ちても助けに来なくていいぞ。
　まあ助けたんじゃなくて見逃しただけだけど。

　エアコン掃除まで　あと14日ぐらい

　９月16日頃のことだっただろうか。仕事を終え帰宅する途中、道端の飲食店の入口付近の地面に体長4cmほどの黒い物体がひとつ、モソモソ動いていることに気づいた。

「すわ！」

と思い近付いて見ると（わざわざ見るなよ）それはゴキブリには違いなかったのだが、頭部に白い楕円の模様が付いていた。そうだ、これが有名なワモンゴキブリに違いない。
　 本物はおろか、写真でさえ見たこともなかったので、ちょっと感動…なんぞはしなかったが。ワモンとは言え、同じゴキブリに変わりはない。速やかに引導を渡してしんぜよう、と思ったがやめた。
　なぜならその日はサンダル履きだったからだ。
「なんだ勇気がない」などと言うなかれ。武器がなければ戦えないのは、これはどうにもいたしかたないことである。
　日々の生活に使っているサンダルを汚すのは嫌だし、当然ゴキジェットもコックローチＳもない。そんな時、いったいどうやって戦えというのか。負けることが誰の目にも明らかな戦いをするほど私は愚かではない。しょせん素手ではかなわぬ相手なのだ。

　そりゃくやしいさ。目の前ににっくき敵がいながら何の術も打つことが出来ない自分に対し、やり場のない怒りと悲しさが込み上げてきたさ。
　でもここは勇気を持って撤退することを決意したのだ。がむしゃらな猪武者ばかりが勇気があるとは思わない。あえて引くことが出来ることこそ本当の勇気であると教えられて生きてきた。この20数年間引いてばかりであるが。

　勇気ある撤退をした俺はあらためて心に誓ったのだ、

「エアコン早く掃除すべぇ」と！

　その数日後、アルミサッシのレールの所に体長5mmの幼虫の死骸もしくは脱皮の抜け殻と思われるものを発見。「ありゃま」と思っているとサッシの下から体長5mmの幼虫の生きてるヤツがのこのこ出てきた。
　当然武器がある時は戦うぞ。ゴキジェットをサッシの下に逃げ込んだヤツに噴射した。死体は確認できなかったが、命中したから多分死んだであろう。

　この夏はほんとによく出た。毎年数が増えている。確実に。
　やっぱりエアコンの後ろ、壁の中は大小様々なクロゴキでいっぱいっスか？　早くもっと涼しくなれ〜。

　エアコン掃除まで　あと７日ぐらい

　10月7日、昨夜久しぶりに自炊したので焼肉の臭いが狭い部屋に充満していた。この頃はコンビニの弁当か外食ばかりだったのでいい加減飽きていたのだ。気温も下がってきたので電気釜のご飯が腐る心配もない。

　買ってきたSimCity3000を横目に、昨日の残りのご飯で遅い夕飯を食べる。テーブルを拭いた紙ナプキンを捨てようとゴミ箱を動かしたところ！

　いた！　5mmの幼虫だ！！

　さっそくティッシュで圧殺せしめたが、まさかこんなに気温が下がってから出るとは思わなかった。おまけにちっちゃい幼虫だ。絶対に卵が孵化したに違いない。うぅっ…いやだなぁ。後2〜30匹の幼虫と親がいるのは間違いない。

　最近静かだったのが、焼肉の匂いに誘われて出てきたんであろう。何て現金なヤツらだ。

　早めにエアコン裏をやっちまわないとな。そう思いつつ頭の方はSimCity3000に。
「市長、ダイナ市はゴミであふれかえっています。もう台無し！」
　市の衛生局が埋立地がいっぱいになっていることを伝えてきた。周囲は悪臭による大気汚染で土地の価値が低い。
「きっとここにもゴキブリがいてSim人達は苦労しているんだろうな」ゴミの自然分解には時間がかかる。大気汚染はよりひどくなるが、ゴキブリよりまし、と思い市長は焼却炉を設置する事にした。

　さてこっからまた現実である。
　その夜床についてうつらうつらし始めた頃、いきなりカリカリカリカリ！　という音が暗闇の中に響いた。

　すわ！
　と思い電気をつけまわりを見回す。別に何もいないようだ。枕元の棚の上に載せているホイホイにも異常はない。薄い壁を隔てた外側で、風に飛ばされた枯葉がぶつかったのが聞こえたのかな？　と思いその夜は寝た。しかし現実はそんなにおセンチなものではなかったのは、ここの読者であれば想像するに易しいだろう。

　翌々日、昼をとうにまわった時間に起き出し、「この連休中にエアコン掃除すっぺかなー？」と思いながらエアコンの上に設置しておいたホイホイを遠めに見ると…ここんとこ視力が落ちてよく見えないのだが、何か黒いものが入っているのだけは確認できた。

「いるよ…いやがるよ………」
　まぎれもない3cmほどの成虫。けつっぺたにはさほど大きくないが卵をくっつけている。つまりメスである。おそらくこないだの幼虫の親である。絶対こないだのカリカリカリカリ！　の主である。
　ホイホイに捕まったときの断末魔のもがきだったのだろう。ザマーミロ。またフンをしている。こいつらほんとにそういう趣味があんのか？
　以前に卵付のメスを引っ捕らえたのもエアコンの上だ。ひょっとしてここってメスが好む場所なのか？　とも思ったが、偶然かも知れない。

　それにしてもこの季節になって出たのは本当に初めてだ。こんなのがいるんだからエアコンの中や裏には10匹近い成虫がいるのかもしれない。
　エアコン掃除するにはやはり東急ハンズかどっかでビニールのでかいシートを買ってきてエアコンのある一画を覆い、よもや出てきたヤツらが逃げられないようにしてからやった方がいいかな…と思っている。もちろん服装は完全防備である。

　いずれもお金がかかりそうであるが、日本国憲法で保証された健康で文化的な最低限度の生活を営むためにはやむを得まい。さあ、とうとう決戦の日が近付いているのだ。この連休を逃してはめんどっちー。

　エアコン掃除まで　あと２日ぐらい