６月２９日。俺はギターの練習をしていた。外は雨。そろそろ遅れた梅雨がやって来たようだ。

　部屋の中はエアコンで除湿しているが、それでもギターの鳴りが悪くなる。いや、弦を長いこと取り替えてないせいだろうか？　まあいい。

　エフェクターボックスは数日前から広げっぱなしにしている。ディストーションを調整しようと目をやると、ボックスの中を黒い物体がチョコチョコぴらぴらしているのを目撃した。もういちいち書くのもめんどくさいが、体長5mmの幼虫である。約１週間前に出たのと同じである。
　5mmの幼虫は今年３匹目だ。うんざり以外の何物でもないが、壁の隙間を埋めたせいで、今回ばかりは妙な安心感がある。

「隙間を埋める前に部屋に侵入していたヤツが出てきただけだよね」

　勝手な解釈であることは百も承知だ。本音はそう信じたいだけなのだ。そいつをどうしたかって？もちろん近くにあったガムテープにひっつけてたたんで丸めてポイですよ。一件落着。

　それから夏に入り、暑い日が続くようになった。それでもよほど隙間を塞いだことに自信があるのか、「出るわけない、仮に出たとしても部屋に隠れてた幼虫が成長しただけ」と、呑気に考えていた。

　実際７月に入ってからは何事もなかった。猫が残していったノミに手足を食われただけで、本当に平穏だった。

　しかしその平和は長くは続かなかった。７月末か、８月１日頃だろうか。まず夢の中にヤツらは出てきたのだ。以前からヤツらを退治する夢は何度か見た。今回もクロゴキブリの成虫３匹をゴキジェットで退治している夢だ。場所は部屋の中だったような気もするし、外の道端だったような気もする。

　それだけで終ってくれれば「気持ち悪い夢だったね」で済んだのだが、８月４日、仕事から帰ってきて部屋の掃除をしつつ、なにげにホイホイの中をチェックしたら捕まっていたのだ。

「まあどうせいないよね」そう言いながらチェックしたのだが、いたのだ。あらまあ…。

　体長3.5cm、クロゴキブリ成虫。

　もう足をギチギチも触角をピラピラもしていない。完全にくたばっている所を見ると捕まってから３日はたっているだろうか。
　夢を見た日に妙に重なる…。俺の中の野性の本能が敏感に感じとって見させた夢だったのだろうか。場所は先月幼虫を捕獲した、本棚の前の荷物を積んである所である。ここが通り道なのかも知れないと思ってセットしておいたのが効を奏したのだ。やっぱり通り道みたい。

　とにかく困ったもんだ、であるのだが、いまだに妙に安心している。「隙間を埋める前に部屋に侵入していたヤツが出てきただけ」だと思うのだが。そう思いたいのだがいかがなものか。

　実のことを言えば、まだ部屋の３分の１ほどは隙間を埋めていない。つーか、隙間になっているようにどうしても見えないのでやってないのだ。やった方がいいのかな〜？

　ついでにばらすとフォグロンもやっていない。ノミに食われたときもやろうと思ったけど（フォグロンはノミにも効く）、食器などを袋で覆わないといけないので、ついついめんどくさくてやりそびれているのだ。

「まあどうせ出ないだろうしぃ〜、やったって出る時ゃ出るしぃ〜、やり過ぎは体に毒だしぃ〜」

　なんとでも理由はつけられる。おまけにその言い訳にもたしかに一理ある。何より体に毒なのは嫌だ。結構壁などに残留するらしい。

　今回のヤツの侵入場所だって？　そんなん知らんよ。窓はそう長いこと網戸にさえしていないし、部屋中隙間を塞いでいるのは知ってのとおり。やっぱり一月前に5mm程度だった幼虫が成長したんじゃないスか？
　でもほんとに一月で成虫になるのかな？　まあ先月2cmのやつもいたから、そういうのが…って、あの時も結構徹底的に部屋を掃除したはずだぞ。やっぱりそのクラスのがどっかに隠れてたのかなあ…。5mmのヤツなら見逃しそうだけど、2cmのヤツなら見逃さないような気も…。

　今回は手を汚さずに退治したせいもありいたって呑気だったのが、これを書いているうちに段々怖くなってきた。

　フォグロンぐらいはノミ退治のためにもやってみようと思っているが、それ以外の対策はあまり取らずに、様子を見てみようと思う。

　８月５日。つまり前話の翌日である。本当のところ、５日の午前１時過ぎなので同じ日と考えてもよい。

　また幼虫が出た。

　１時過ぎ、遅くなったが飯でも食おうとイスに座っていた矢先、すぐそばの流しで何やら音がした。やかんに水などが入っているとなぜか音がすることがあるが、それとは違う。だいいちやかんに水は入っていない。排水口で音がするのだ。

　流しは数時間使っていないのでほとんど乾いている。しかし今しがたの音は水が垂れるような音だった。排水管内に残っていた水が何かの拍子にたれたのかも知れない。どうもゴキブリを処理した後だけに過敏になっているようだ。

　排水口が臭い。定期的に液体のパイプ洗浄薬できれいにしているのだが、あまり効き目がない。目に見える所はすごくきれいなのだが。

　そう思いながら排水口にかぶせてあるゴミ取り（ゴキよけ）の金属製の網を掃除した。と、流しの横の壁に黒く動く物体発見！

　また出たのだ。体長5mmの幼虫が。今年４匹目。

　こうなると６月に埋めた壁の隙間の幻想なんかふっとんでしまう。あきらかにどこかから出現しているのだ。場所の特定は急務である。

　幸い5mmの幼虫ならヘタすりゃさわれそうなぐらい怖くない。いや、さわんないけどね。そいつを脅かしてみて侵入源を確かめようと考えた。

　捨てた歯ブラシで直接刺激しているのに案外逃げないのを、無理矢理に追い立てる。片手にはガムテープをちぎったものを持ち、侵入源を突き止めしだい逮捕するつもりだ。

　どこに逃げるかと思えばガス台の狭い間に行き、油よけのアルミホイルの天プラガードの所で不覚にも見失ってしまった。急いでガス台の下を見るがそれらしき姿はない。天プラガードを見るがいない。
　が、よく見ると天プラガードで隠れた金属の流しの端が最大5mmほど浮き上がっている。どうやら今回そこに逃げ込んだようだ。

　そこを叩いたり刺激してみるが姿は現さない。本当にここに逃げ込んだのか怪しい気分になってきたが、疑わしきは塞げである。今までキッチンテープでも塞いでいなかった箇所に気づいたのだ。キッチンテープは探したがなかったのでパテで塞ぐことにした。指先にパテを取って、少しずつ埋めて行く。これでここに逃げ込んだとしても出てこられないだろう。ざまあみろ。
　ついでにガス台のスペースと、下の収納の間の所にもかなり大きな隙間を発見。疑わしきはパテで塞ぐ。

　さて、また再び侵入場所捜査である。どうも流しの排水口が怪しい気がしてきた。金属ネットで蓋しているが、体長5mmの幼虫なら通れると思われる穴の広さだ。水もエサも豊富と思われる排水口から、なぜわざわざ部屋に入ってくるのかはついぞ知らないが、可能性はありそうだ。
　もっと目の細かいネットで塞ぐしかないのだろうか？　非常にめんどくさいのだが…。

　な〜んてめんどくさがってちゃだめだね。油断も隙もありゃしない。

　当日っつーか翌日っつーか、とにかく５日、部屋の掃除やＧＫＤの更新やらで４時頃まで起きてたために仕事から帰ってきてすぐに寝たのだが、途中４時頃目が覚め、なにげにロフトの横の棚の上のホイホイを見ると、

　体長2cmの幼虫が一匹かかってんじゃん！

　やだな〜（苦笑）どっから出てきたかね、あーた。
　前日は部屋の中ひっくり返して掃除したし、新たに発見した隙間はパテで埋めた。それなのに、ああそれなのに。
　やっぱりこいつらって未来からタイムマシンでいきなりうちの部屋に現れるんちゃうか？　と思いたくなる。

　ただ、なぜかこいつもピクリともしていないのが不思議だ。今までのはかかって数日は足や触角をギチギチ、ぴらぴらさせていたのだが。２日にいっぺんぐらいはここのホイホイはチェックしているので日がたって死んじゃったわけでもあるまいに。コンバットかなんか食ってその後に捕まったのかねー？

　まあいいや、ホイホイは手も部屋も汚さないのでいいね。こいつはすぐ捨てて新しいのを買ってきた。新型で、粘着剤に多少のでこぼこをつけてさらにくっつきやすくしたらしい。さっそく部屋に数カ所しかける。

　目の細かいゴミ取りネットでとうとう流しの排水口も塞いだ。いくらなんでもこの細かさなら幼虫も通れまい。今までやってなかったビデオラックの下なども今回は念入りに掃除した。

　これでもまだヤツらは出るんだろうか？　またちょっと様子を見てみようかな。