愛と感動の闘病記《最後の一葉》
手術当日
２００２年３月１３日（水）
朝６時過ぎ、看護婦がお通じがあったか聞きに来て目覚める。全然お通じの気配もない。
やむを得ず200ccぐらいの浣腸を２度ほど自分でする。
浣腸というから、ぶっとい注射器型のヤツとか、いろいろ想像たくましくしていたのだが、浮き輪に空気を入れる時に使うポンプのようなヤツに浣腸液が入っている物であった。
しかし15分がまんしても全然おなかがゴロゴロいわない。よほど頑固な便秘らしい。入れた浣腸液がそのまま出るばかりで便は全然出なかった。
俺は下剤にも浣腸にも勝ったのである。勝ってどうする。
いよいよもっと強力な浣腸が登場するのか？ と思ったが、ここまで頑固なら麻酔中も問題なかろうということで、もうやらなくてよくなった。
9時30分、ひげを剃る。衛生上と、酸素マスクをちゃんと装着するためらしい。
その後点滴。太くて長い点滴針が右腕に入っていく。４～５cmはあったろうか。我慢できないほどでないが、多少は痛いね。
11時頃、ヘルニア最後の抵抗。足がまた少し痛くなる。湿布を貼って対抗する。点滴１本終わり、続けて２本同時におこなう。
母が医療事故などを心配しているので、「この点滴にも消毒液が入ってる」とかアホなことばかり言っていた。 念のため、紙の裏に辞世の句として「古池や蛙飛び込む水の音」などと書く。 手術中、幽体離脱したら鈴木宗男を殴りに行くことを明言。
もしかしたら三途の川の向こう岸のお花畑でおいでおいでをしてる髪の長い女性とか、こないだ亡くなった猫とかに会えるかも知れないなどと思って、内心わくわく。なんとものん気な患者であったと思う。事実、手術への恐れはこれっぽっちもなかったのだ。
手術ですョ
午後3時40分、ストレッチャーという手術室へ運ぶための専用ベッドが運ばれてくる。
麻酔を効きやすくするために、左肩にまた筋肉注射を打つ。これが結構痛い。耐えられないほどではないが。点滴針の刺さった右手でそこをよ～く揉む。いったい今回何本注射針を刺したろうか？
女性のヘルパーさんらの手助けを受けてストレッチャーに乗り、２階の手術室へ運ばれて行く。テレビドラマなんかと同じだ。いやが上にも期待が高まる。わくわく♪
手術室では手術着を着た医師、看護士、看護婦達が待ちかまえていた。わくわく♪
本人はいたって気楽なのだが、まわりの看護婦、ヘルパーさんらが慌ただしく、その意味ではちょっと不安感をあおる。
髪をしまう帽子をかぶり、口に呼吸マスクをつける。まず一発目の薬がそこから入ってくる。すこしくらくらしたけどまだ意識はある。
「それじゃみなさんよろしくお願いしま～す」と元気に能天気にご挨拶。次にほんとの麻酔が送られ、眠くなるというより、気を失った。
気がつくと病室のベッドの上だったと思う。多分５時半頃だと思う。気管に入れられていたと思われる呼吸用の管がすぐに取り外された。ちょっと苦しかったっけ。
医者や看護婦さん達に「おかげでよくなりました～、ありがとうございました～」とか言ったような気がする。母親の呼びかけには、かねての計画どおり「スズキムネオ…」と応える。つかみはOK！
はいていたトランクスは麻酔中に脱がされて（エッチ！）、代わりにＴ字帯というガーゼのふんどしがはかされている。壁の穴からは口に酸素が送られてきている。 尿道には膀胱まで導尿カテーテルという細い管が差し込まれていて、トイレに行かずとも勝手に小便を処理してくれるのだが、ちょっと動くたびに鋭い痛みを発する。うまく挿管されればさほど痛くないと母は言う。一度でうまく挿管できず、尿道の粘膜を少し傷つけたのかも知れない。
尿意はあったので、出すように息んでいいのか迷っていたら、勝手に管から排尿されたようで、しばらくしたら尿意はなくなった。
看護婦さんに、カテーテルが痛いので取って欲しいと言ったら、夜中の12時に取りましょうということになった。
背中の傷だが、まだ半眠りだし、仰向けでじっとしてるのでよくわからないが、多少の痛みはあったように思う。そんな飛び上がるほど痛いわけじゃないけどね。
どうしても痛くて耐えられない場合は、今度は率先して筋肉注射を打ってくれるそうである。それもヤだけどね。結局それを必要とするような痛みがなかったから助かったけど。
肝心の足の痛みも、カテーテルが痛いからあまり動かせないのだが、痛くないと思えた。成功したんだな…と思った。
切開した傷の横には中の血を排出するための管がささっていて、内出血と感染症を防ぐようにされている。管は腰にぶら下げた入れ物に通じている。 後日ガーゼをはがして見てみたところ、言われたとおりに５針縫われた３cmの切開痕と、その横に排血のために挿管した痕があった。
上からさわってみると少し腫れているように盛り上がっているが、押しても痛くはない。 背中に刀傷（手術痕だってば）ができたからには、もうグラビアアイドルとしての仕事はできねぇな（笑）。
今は目立つけど、これから徐々に目立たなくなっていくんじゃないかと思う。
３時間置きに検温、血圧測定。のどが渇き、タンがからまる。吸い飲みで水を少しずつ飲む。 夜中12時、看護婦さんが来てカテーテルを外してくれた。
「痛いからねー。息を吸ってー、吐いてー、抜くよ～」
息を吐いてる間に抜いてくれたが、メチャクチャ痛かった。でもこれで多少足が動かせる。寝たまま新しくオーダーしたコルセットを付けてもらった。気分はヨーロッパの貴婦人か？ これで腰がくびれるようになる？ 気分は草凪純。
ところで麻酔中の記憶はこれっぽっちもなかった。幽体離脱も、三途の川とお花畑も、死んだ猫に会うことも、鈴木宗男を殴ることもできなかった。意識を取り戻した瞬間に忘れちゃっただけかも知れないけど。残念。
